研究紹介

原始惑星系円盤における輝線の圧力広がりの発見と水素ガス分布の直接的制約

原始惑星系円盤の質量の大部分を担う水素ガスの分布を観測的に調べることは、惑星系の形成過程やガス惑星の組成を明らかにする上で不可欠です。 それにもかかわらず、円盤の環境では水素ガスは観測可能な放射を出さないため、これまでほとんど不可能でした。 我々はALMA望遠鏡のアーカイブデータを用いて、TW Hya周りの原始惑星系円盤中心部の一酸化炭素輝線が「圧力広がり」という、比較的高い圧力下で見られる特徴的な形状を持つことを発見しました。 「圧力広がり」が原始惑星系円盤で検出されたのは初めてのことです。これを用いることで、円盤の内側部分でのガス密度分布を直接的に制約することに成功しました。 その結果、TW Hya円盤の中心星から5 auより内側の領域に8木星質量程度のガスが存在することなどがわかりました。 より詳しい解説は国立天文台プレスリリース - 年を経た惑星工場にも十分な材料をご覧ください。
論文: Yoshida et al., 2022, ApJL, 937, L14
本論文はAASのハイライト論文に選ばれました: AAS Nova - Under Pressure: A New Technique for Measuring Gas Surface Density

さらに、この手法を別の天体にも応用しはじめています。ALMA大型プログラムexoALMAのデータを用いて、若い星RX J.1604.3-2130 A周りの円盤でガスの分布を測定することに成功しました。この円盤では、ガスの圧力が極大になるところでダストが集積している様子などが明らかになりました。
論文: Yoshida et al., 2025, ApJL, 984, L19
exoALMAプロジェクトについての詳細はこちら: exoALMAが拓く、惑星形成の新たな視界 : 惑星探しを超えて、 形成円盤の物理機構に迫る

また、圧力広がりによってできる輝線の端の部分(すそ)は円盤の中心面領域を直接トレースしています。 これをうまく利用すると、これまで難しかった円盤中心面温度の直接推定を行うことができます。さらに、温度が推定されれば、そこからダストの性質にも迫ることができます。 我々はTW Hya円盤の中心面温度を推定し、それをダストからの放射と比較することで、ダストのサイズや組成などに制限をかけました。
論文: Yoshida et al., 2025, ApJ, 980, 50

形成中の系外惑星さがし

原始惑星系円盤中で形成されつつある惑星を観測することで、惑星形成過程の詳細に迫ることができます。 我々は、はえ座MP星周りの円盤において、一硫化ケイ素の同位体放射を初めて見つけました。 これは、木星質量よりもずっと小さい惑星が纏うエンベロープという構造に由来するものと解釈することができます。
論文: Yoshida et al., 2026, ApJL, 999, L22

また、以下の論文では、うみへび座TW星周りの円盤中に埋没した形成初期段階の原始惑星から噴出していると考えられるアウトフローを一酸化硫黄分子を用いて発見しました。このアウトフローの速度からは、惑星質量が約4地球質量であることがわかりました。さらに、アウトフローの質量放出率からは、原始惑星への質量降着率が1年間に約0.0003地球質量と見積もられました。これらの推定結果は、理論研究の予言に一致します。アウトフローを用いることで、惑星がどのように成長していくのかがわかるようになるかもしれません。
論文: Yoshida et al., 2024, ApJL, 971, L15
本論文はAASのハイライト論文に選ばれました: AAS Nova - A Baby Planet Reveals Its Hiding Place

時間領域天文学による重力不安定な惑星系形成領域の発見

アルマ望遠鏡による7年間にわたる観測を通じて、おおかみ座IM星まわりの原始惑星系円盤の「動画撮影」を行い、内側部分がダイナミックな動きを示していることを明らかにしました。 これは、惑星系形成領域が重力不安定であることの初めての観測的証拠です。重力不安定性が惑星系形成過程における重要なメカニズムであるということを示唆します。 より詳しい解説は国立天文台アルマプロジェクトプレスリリース - 惑星を作る渦巻きの動画撮影に成功をご覧ください。
論文: Yoshida et al., 2025, Nature Astronomy

Imlup

原始惑星系円盤における分子ガス同位体比の制約

原始惑星系円盤から惑星系へと至る物質の進化・輸送過程を理解するために、同位体比は重要なツールです。 しかし、原始惑星系円盤の分子ガス同位体比を測定することは、これまで困難でした。 我々は、分子輝線スペクトルの「すそ」の部分を用いる新手法を開発し、ALMA望遠鏡のアーカイブデータを用いて、 TW Hya周りの原始惑星系円盤で12CO/13CO比を測定することに成功しました。 その結果、TW Hya円盤では、半径100 auより内側で12CO/13CO比が低く、外側で高くなっていることが明らかになりました。 このように、一つの円盤の内外で大きな炭素同位体比の変化が観測されたのは初めてのことです。 炭素同位体比には、今後、他の円盤や隕石などの太陽系物質との比較により惑星系物質の起源に迫る新たなツールとしての活用が期待されます。 より詳しい解説はアルマニュース(2022/8/12)をご覧ください。
論文: Yoshida et al., 2022, ApJ, 932, 126

また、我々はALMA望遠鏡によるTW Hya円盤のアーカイブデータ中に13CN輝線が検出されていることを発見しました。12CN輝線の観測結果と合わせて非局所熱力学平衡モデリングを行うことで、12CN/13CNを制約することに成功しました。その値は70程度と星間物質における12C/13C比に近い一方で、COやHCNの炭素同位体比とは異なる値を示していました。この結果は、原始惑星系円盤中で複雑な炭素同位体分別が進行していることを示唆します。
論文: Yoshida et al., 2024, ApJ, 966, 63

原始星ジェットの時間変化

太陽のような星の質量がどのようにして決まるのかを解明することは、星形成分野の最重要課題の一つです。 ガス雲の重力崩壊により形成された原始星は、周りからガスを引きつけて成長しますが、同時に、原始星ジェットや原始星アウトフローと呼ばれるガスの噴出も起こります。最終的な星の質量は、噴出したガスに影響を受けるため、ガスの噴出メカニズムを明らかにすることが重要です。 そのためにはまず、原始星ジェット・アウトフローの諸物理量を知る必要があります。今回我々は、L1448C(N)という原始星から噴き出す原始星ジェット・アウトフローの質量損失率やエネルギーなどの物理量を、サブミリ波干渉計(SMA)を用いて測定しました。SMAによる観測は約10年間にわたり3回行われており、原始星ジェットの「ノット」と呼ばれる部分が天球面上を動いていることや、新しいノットが生まれていることなどがわかりました。
論文: Yoshida et al., 2021, ApJ, 906, 112