研究紹介

原始惑星系円盤における輝線の圧力広がりの発見と水素ガス分布の直接的制約

原始惑星系円盤の質量の大部分を担う水素ガスの分布を観測的に調べることは、惑星系の形成過程やガス惑星の組成を明らかにする上で不可欠です。 それにもかかわらず、円盤の環境では水素ガスは観測可能な放射を出さないため、これまでほとんど不可能でした。 我々はALMA望遠鏡のアーカイブデータを用いて、TW Hya周りの原始惑星系円盤中心部の一酸化炭素輝線が「圧力広がり」という、比較的高い圧力下で見られる特徴的な形状を持つことを発見しました。 「圧力広がり」が原始惑星系円盤で検出されたのは初めてのことです。これを用いることで、円盤の内側部分でのガス密度分布を直接的に制約することに成功しました。 その結果、TW Hya円盤の中心星から5 auより内側の領域に8木星質量程度のガスが存在することなどがわかりました。 今後はこの手法を他の円盤にも適用していきたいと考えています。 より詳しい解説は国立天文台プレスリリース - 年を経た惑星工場にも十分な材料をご覧ください。
論文: Yoshida et al., 2022, ApJL, 937, L14
本論文はAASの研究ハイライトに選ばれました: AAS Nova - Under Pressure: A New Technique for Measuring Gas Surface Density

原始惑星系円盤における分子ガス同位体比の制約

原始惑星系円盤から惑星系へと至る物質の進化・輸送過程を理解するために、同位体比は重要なツールです。 しかし、原始惑星系円盤の分子ガス同位体比を測定することは、これまで困難でした。 我々は、分子輝線スペクトルの「すそ」の部分を用いる新手法を開発し、ALMA望遠鏡のアーカイブデータを用いて、 TW Hya周りの原始惑星系円盤で12CO/13CO比を測定することに成功しました。 その結果、TW Hya円盤では、半径100 auより内側で12CO/13CO比が低く、外側で高くなっていることが明らかになりました。 このように、一つの円盤の内外で大きな炭素同位体比の変化が観測されたのは初めてのことです。 炭素同位体比には、今後、他の円盤や隕石などの太陽系物質との比較により惑星系物質の起源に迫る新たなツールとしての活用が期待されます。 より詳しい解説はアルマニュース(2022/8/12)をご覧ください。
論文: Yoshida et al., 2022, ApJ, 932, 126

また、我々はALMA望遠鏡によるTW Hya円盤のアーカイブデータ中に13CN輝線が検出されていることを発見しました。12CN輝線の観測結果と合わせて非局所熱力学平衡モデリングを行うことで、12CN/13CNを制約することに成功しました。その値は70程度と星間物質における12C/13C比に近い一方で、COやHCNの炭素同位体比とは異なる値を示していました。この結果は、原始惑星系円盤中で複雑な炭素同位体分別が進行していることを示唆します。
論文: Yoshida et al., 2024, ApJ, in press

原始星ジェットの時間変化

太陽のような星の質量がどのようにして決まるのかを解明することは、星形成分野の最重要課題の一つです。 ガス雲の重力崩壊により形成された原始星は、周りからガスを引きつけて成長しますが、同時に、原始星ジェットや原始星アウトフローと呼ばれるガスの噴出も起こります。最終的な星の質量は、降着したガスと噴出したガスのバランスで決まるため、ガスの噴出メカニズムを明らかにすることが重要です。 そのためにはまず、原始星ジェット・アウトフローの諸物理量を知る必要があります。今回我々は、L1448C(N)という原始星から噴き出す原始星ジェット・アウトフローの質量損失率やエネルギーなどの物理量を、サブミリ波干渉計(SMA)を用いて測定しました。SMAによる観測は約10年間にわたり3回行われており、原始星ジェットの「ノット」と呼ばれる部分が天球面上を動いていることや、新しいノットが生まれていることなどがわかりました。
論文: Yoshida et al., 2021, ApJ, 906, 112